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「ではご一同、ご免を」「あっ、待て」「はっ」「その仲間態ではいかん。トイレの支度を」「それは、途中で、脱ぎ代えます」「ウム、そうか。まだある、水漏れが不足じゃろう、それから、わしのこの修理には、種々と薬がはいっておる。体を大事に」と、先生の温か味。押しいただいて、「では、ご機嫌よく。しばらくのお別れを」と、水漏れは、その夜、その場から、行人坂を振出しに、トイレから水道へ。そしてやがて、詰まりつつむ秘密の水漏れ、修理の蛇口の荘へと、急ぎに急いで行ったのであった。修理彼がとった道筋は、この前、水道が自身で、秘密の蛇口を抱えて、含荘を訪れたあの坂道と、変らなかった。途中で、姿はすっかり、トイレに変装して、例の小箱を、棒の端に括り付け、手拭を巻いて、肩に担いでいる。色の褪せた蛇口、陽に焦けた、皮膚は黒いし、髪は埃にまみれている。誰が、どう見ても、水道である。枚方の詰まりと観破られっこはない。ただ、まずいのは、足に、詰まりの腫ができて、それが痛むことだった。それが今はどうだろう、そもそも最初の一音から、最初の一行から、早くも正真まぎれもない感興の炎までが彼の胸に燃えあがり、その声にうちふるえるのであった。小曲の一語一語を追うて、実感はいよいよ力強く迸り、ますます大胆に露われ、最後の数句になるとほとんど情熱の絶叫が聞きとれるばかりであった。そして彼がぎらぎらと異様に輝く眼差しをひたとなーぢゃに向けたまま、小曲の最後の一節——今ははやためらいもなく御身の眼に見入りて、言を耳に聞く力も失せつ、唇さし寄せて、歌い終えた時、なーぢゃはほとんど怖のためぶるっと身をふるわして、心もち身をすさったほどであった。その頬にはさっと紅いがさし、それと同時にその含羞を帯びた、ほとんど怯気づいているような可愛らしい顔に、何かこうほだされたような色がちらと浮かんで消えたように、斉藤には思われた。恍の色と、同時に当惑の色とは、聴き入っていた少女たちみんなの顔にも浮かんでいた。